こんにちは、ランシステムのヒロ田中です。
突然ですが、皆さんは最近、いつ「テスト」を受けましたか? 資格試験や昇進試験ではなく、もっと純粋な「理解度の確認」としてのテストです。日々の業務に追われる私たちビジネスパーソンにとって、テストという響きはどこか懐かしく、同時に少しの煩わしさを感じさせるものかもしれません。
しかし、今回私が取り上げるのは、あえて時間を割いてでも取り組む価値のある「テスト」です。⚠️

ご覧いただいたのは、先日、埼玉県警察が小学生・中学生・高校生向けに、サイバー空間での安全な過ごし方を確認するための「サイバーテスト」として公開したものです。学校で配られる「カラーテスト」を彷彿とさせる、あのどこか温かみのある、それでいて本質を突いたデザイン。PDF形式で誰でもダウンロードできるようになっています。
これを聞いて、「何を言っているんだヒロ、所詮は子供向けだろう? 我々プロのビジネスパーソンには、もっと高度なセキュリティ・ソリューションの話をしてくれ」と苦笑いされる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、あえて申し上げましょう。
その「自分はわかっている」という高慢な油断こそが、
サイバー攻撃者が最も好む「心理的な脆弱性」なのです。
昨今のサイバー攻撃は、高度なゼロデイ脆弱性を突くような技術的なものばかりではありません。むしろ、人間が本来持っている「認知の癖」や「ちょっとした不注意」、そして「初歩的な知識の欠如」を巧妙に突くものが主流となっています。
今回は、この一見「子供向け」に見えるテストに隠された、大人が直面すべきビジネスリスクの本質を、深く紐解いていきたいと思います。
大人こそ間違える「3つの落とし穴」
このテストがカバーする範囲は非常に広く、「ネットリテラシー」「闇バイト」「サイバー犯罪」「金融犯罪」「ランサムウェア」「オンラインゲーム」と多岐にわたります。これらを単なる子供の教育問題として片付けるのは、あまりにも勿体ない。これらは現代のビジネスリスクを凝縮した「教典」と言っても過言ではありません。
① 金融犯罪・サイバー犯罪 = 「ビジネスメール詐欺(BEC)」への心理的耐性
テストには「偽のメールやサイト」を見分けるための、極めて基本的な設問が登場します。 「そんなの簡単だ」と思うかもしれません。しかし、これが実務の文脈に置かれた瞬間、難易度は跳ね上がります。
例えば、金曜日の夕方、退勤間際に届いた「社長名義の緊急送金依頼」。あるいは、長年取引のあるパートナー企業からの「振込先口座変更のお知らせ」。こうした場面で、私たちは子供向けのテストで問われるような「送信元ドメインの微細な違和感」や「文中の不自然な敬語」に、冷静に気づけるでしょうか。
「心理的な焦り」や「偽りの権威」に屈してしまうのは、知識がないからではありません。私たちの脳が、緊急事態において「確認」というコストを省こうとしてしまうからです。このテストは、その「脳のサボり」を自覚させるための、いわば精神的な柔軟体操なのです。
② ランサムウェア = 組織の運命を左右する「0秒の判断力」
ランサムウェアの項目では、万が一の感染が疑われる際の「初動」が問われます。 皆さんの部下、あるいは皆さん自身は、「何か変だ」と感じたその瞬間に、迷わずLANケーブルを物理的に抜き、Wi-Fiを切断できますか?
「本当に感染しているかわからないのに、勝手にネットワークを遮断して業務を止めたら怒られるのではないか」 「まずは上司に相談して、指示を仰いでから……」
この「事なかれ主義」や「報告の遅れ」こそが、ランサムウェア被害を致命的なものにする原因です。子供向けのテストで「すぐ抜く!」と答えるのは簡単ですが、それを組織の文化として、迷いなく実行できるレベルまで落とし込めているでしょうか。知識を「筋肉の反射」に変える。それが、このテストをビジネスパーソンが解くべき真意の一つです。
③ 闇バイト = 「内部不正」と「インサイダー脅威」の深淵
最近世間を騒がせている「闇バイト」。これは単なる若者の道の踏み外しではありません。ビジネスの視点で見れば、これは「内部不正(インサイダー脅威)」への入り口そのものです。
「副業で少しでも稼ぎたい」「SNSで見かけた高収入の募集」といった入り口から、一度足を踏み入れると逃げられなくなる。この「孤立させ、正常な判断力を奪う」心理的操作の手口は、標的型メール攻撃や、企業内部での産業スパイへの勧誘と全く同じロジックです。 「自分たちの大切な社員が、いつの間にか加害者側に回ってしまう」。そんな最悪のシナリオを防ぐためのヒントが、このテストの設問には隠されています。
なぜ今、あえて「テスト」が必要なのか
「正常性バイアス」という名の麻薬を断つ
私たちは常に「自分だけは大丈夫だ」という根拠のない自信、すなわち「正常性バイアス」に支配されています。どれだけ高価なセキュリティソフトを導入しても、操作する人間がこのバイアスに浸かっていては意味がありません。 客観的に点数が出る「テスト」というフィードバックは、この麻薬的なバイアスを現実的に打ち破るための、最もコストパフォーマンスの高い手段なのです。
境界が消滅した時代の「家庭内コンプライアンス」
テレワークの普及により、リビングがオフィスになり、私用のスマートフォンで業務の連絡を取り合うことが当たり前になりました。公私の境界が物理的に消滅した今、子供のSNSリテラシーの低さは、そのまま自宅のWi-Fiを通じた企業情報の漏洩リスクに直結します。 「子供の問題」と「職場の問題」を切り離して考える時代は、もう終わったのです。
「知っている」から「できる」への昇華
セキュリティの知識は、持っているだけでは紙の鎧にもなりません。実際に攻撃を受けた際、画面に警告が出た際に、身体がどう動くか。 このテストは、単なる暗記の確認ではありません。「いざという時に、あなたは正しいボタンを押せますか?」という問いかけなのです。組織全体の「健康診断」として、これほど分かりやすく、かつ本質を突いた教材は他にありません。
活用提案:組織の「多層防御」を「人」で完成させる
さて、この埼玉県警の素晴らしいギフトを、どのように組織の力に変えていくべきでしょうか。
- D&Iの観点から「英語版」を活用する このテストには英語版(ネットリテラシー、金融犯罪)も用意されています。現場に外国籍の従業員が増えている今、日本語の難しいマニュアルを渡すよりも、この視覚的に分かりやすいテストを共通言語として導入する方が、遥かに効果的です。言語の壁を超えた「共通の危機感」を醸成しましょう。
- 「家庭での対話」を評価の指標に組み込む 「今週末、お子さんと一緒にこのテストを解いてみてください。そして、月曜日の朝礼で感想を共有しましょう」 このように、セキュリティ教育を「家族を守るための活動」として再定義するのです。社員が自発的に「家族に教えたい」と思う知識は、結果として職場でも最も強固な知識となります。
- 「失敗を称賛する」心理的安全性の構築 もしテストの結果が悪かった社員がいても、それを責めてはいけません。「ここで間違えてくれて良かった。本番でなくて助かった」と笑って共有できる文化。何か怪しいメールを見た時に「これ、例のテストで出たやつじゃないですか?」と冗談めかして報告できる「心理的安全性の高い組織」
それこそが、どんなAI検知ソフトも敵わない、究極の防御ラインとなります。
まとめ
埼玉県警が公開したサイバーテスト。これを「子供のお遊び」として片付けるか、それとも「組織の脆弱性を炙り出すリトマス試験紙」として活用するか。その判断一つに、リーダーとしての資質が表れます。
あらためて、本稿の要点を整理します。
- 基礎の再確認: 基礎的な設問こそが、ビジネスにおける壊滅的ダメージを防ぐための要である。
- 家庭と職場のリンク: 私生活での防衛意識が、テレワーク時代の企業セキュリティの基盤となる。
- 無料リソースの戦略的活用: 公的なツールを賢く使い、教育コストを抑えつつエンゲージメントを高める。
「自分はプロだ」というプライドは、一度デスクの引き出しにしまってください。そして、お子さんと、あるいは部下と一緒に、この「カラーテスト」に向き合ってみてください。 そこには、皆さんがこれまで見落としていた、しかし致命的になり得る「心の隙間」が、はっきりと描かれているはずです。
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