光るRTA50iに想いを馳せて――デスクの上で見つけた、あの頃のインターネット

月曜日の朝、オフィスに出社した私の目に飛び込んできたのは、隣に座る同僚のデスクに鎮座する見覚えのある「黒い箱」でした。

いや、正確には「箱」と呼ぶにはあまりに小さい。高さわずか数センチ。しかし、その佇まいは紛れもなく、かつて日本のSOHOや家庭の玄関口を守っていた、あの名機「RTA50i」そのものでした。

「ああ、それ。当たりましたよ、YNEのプレゼント」

同僚の何気ない一言が私の胸をわずかに締め付けます。

ヤマハネットワークエンジニア会(YNE)――エンジニア同士が技術を研鑽し、知見を共有するあのコミュニティが実施していたカプセルトイのプレゼントキャンペーン。私ももちろん、人一倍の熱量を持って期待していました。

同僚のデスクに届いた「当選のお知らせ」の一紙と、その横で誇らしげにグリーンに光る「RTA50i」のインジケーター。それを見た瞬間、私の淡い期待は静かに、しかし決定的な「落選」という事実へと変わりました。

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手のひらサイズの「本物」

同僚に許可を得てその小さな筐体を手に取らせてもらいました。 バンダイの「ガシャポン」から登場した『ヤマハネットワーク機器ミニチュアコレクション』。一回500円という価格設定に大人の遊び心が透けて見えます。

驚いたのは、その狂気じみた再現度です。RTA50iの前面にあるLEDがスイッチを入れると実機さながらに点灯するギミック。背面のポート類もしっかりと造形されており、なんと付属のミニチュアLANケーブルが「カチッ」と挿せるというこだわり。

最新のRTX840や無線APのWLX222といった「現役選手」に混じって、あえてRT100iやこのRTA50iという「レジェンド」をラインナップに加えたヤマハとバンダイの担当者に、心からの敬意を評したくなります。

この小さな光を見つめていると、記憶の蓋が音を立てて開きました。

深夜23時、世界への扉が開く音

私の「ヤマハ愛」の原点は、このRTA50iの兄弟機である「RTA52i」にあります。

2000年代初頭、インターネットは今のように「空気」のような存在ではありませんでした。定額制の「テレホーダイ」が始まる深夜23時。あの時間に滑り込むように接続ボタンをクリックし、世界と繋がる。ISDNの64kbps、あるいは2回線を束ねた128kbps。今となっては画像一枚表示するのにも心もとない速度ですが、当時の私たちにとっては、それが「無限の可能性」への入り口でした。

それまでのアナログモデムのような「ピーガガガ……」という接続音は消え、ISDNのデジタル接続は静かで、そして何より「速かった」。

「NetVolante(ネットボランチ)」

この響きに、どれほどのエンジニアが胸を高鳴らせたことでしょう。それまでの「業務用」という冷徹なイメージを覆す、どこか親しみやすい青や黒の筐体。設定画面を開き、コマンドラインを叩き、パケットフィルタリングを設定する。自分の手でインターネットという荒野にゲートウェイを築いているという実感。ヤマハのルーターは、単なる通信機器ではなく、私たちの相棒でした。

変わらないもの、継承されるもの

それから時代は、ADSL、光回線、そしてクラウドへと急速に移り変わりました。 通信速度は数万倍になり、常時接続は当たり前。それでも、現場のエンジニアが選ぶのはやはりヤマハでした。

なぜか。それは「変わらない安心感」があるからです。 どれほどハードウェアが進化しても、設定の文法(コマンド)は一貫しており、安定性は揺るがない。今回のミニチュアラインナップに最新のRTX840が含まれていることが、その歴史の連続性を象徴しています。過去の名機への郷愁だけでなく、現在進行形で信頼を築き続けている。だからこそ、私たちはこの「青い箱」や「黒い箱」に単なる道具以上の愛着を感じてしまうのです。

同僚のデスクで光る RTA50i は、まるで「お前もあの頃、夢中になって設定していただろう?」と語りかけてくるかのようでした。

500円玉を握りしめて

キャンペーンの発送時期が過ぎ、ポストに何も届かなかった悔しさはありますが、諦めがつくはずもありません。 カプセルトイというものは、自らの手でハンドルを回し、カプセルが転がり落ちる瞬間のあの「音」を聞いてこそ手に入れた実感が湧くというものです。

今夜、帰宅途中に大きなカプセルトイ売り場へ寄ってみようと思います。 ポケットの中には500円玉が数枚。

狙うのはもちろん、あの頃の情熱を灯してくれる「RTA50i」。 もし他のモデルが出てきても、それはそれで、ヤマハの歩んできた歴史の一部。きっと、デスクの隅に並べて、仕事の合間にその精巧な造形を眺めながら、またニヤリとしてしまうのでしょう。

エンジニアのデスクには、いつだって、ヤマハの光が必要なのですから。

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