こんにちは。ランシステムのヒロ田中です。今回のお知らせです!
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開した、組織のセキュリティ対応力向上を目的とした机上演習(TTX) の教材と実施マニュアルについて解説しています。巧妙化するサイバー攻撃への対策として、IPAは特に中小企業を対象としたランサムウェア感染シナリオなどを提供し、インシデント発生時の計画策定、関係者間の連携、意思決定のシミュレーション を重視するTTXの意義と具体的な実施方法を提示しています。この教材とマニュアルを活用することで、組織は実践的な演習を通じてセキュリティ意識を高め、いざという時の適切な対応能力を養う ことができます。
机上演習(TTX)とは
IPAが提供する机上演習は、「TTX(Table Top Exercise)」と呼ばれる手法を用いたものです。これは、参加者がテーブルに集まり、あらかじめ設定されたシナリオに基づいてディスカッションを行い、問題解決や意思決定のプロセスをシミュレーションする形式をとります。技術的なスキル向上というよりも、インシデント発生時の計画や戦略の検討、関係者間の連携、そして意思決定を体験することに重点が置かれているのが特徴です。
TTXを実施する主な目的は以下の3点です。
- 理解の促進
サイバー攻撃やリスクに対する組織の対応能力を向上させるため、参加者が自らの役割や責任を理解します
- コミュニケーションの強化
関係者間の情報共有やコミュニケーションを促進し、チームワークを強化します
- 戦略の検証
既存のインシデント対応計画や戦略が効果的であるかを検証し、改善点を見つけます
IPAは、インシデント発生時に実際に意思決定を行う経営層を主な対象者として想定しており、その参加を強く推奨しています。さらに、組織の管理者、システムやセキュリティ担当者、事業担当者など、情報セキュリティ責任者をサポートする担当者を含めることで、組織全体の理解促進とチームワークの強化につながります。

IPAが公開した演習教材と実施マニュアル
今回IPAが公開した教材は、中小企業を対象としたセキュリティインシデント対応机上演習を想定しており、より多くの組織が机上演習を実施できるよう支援することを目的としています。2025年4月時点で、以下の2種類のランサムウェア感染を想定したシナリオが用意されています。
- 一般企業向けランサムウェア感染シナリオ
- 医療機関向けランサムウェア感染シナリオ

これらの演習は、「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」をベースに構成されており、インシデント発生時の対応を「検知・初動対応」「報告・公表」「復旧・再発防止」の3つの段階に分けて検討します。演習を通じて、参加者はインシデント対応に関する基本的な知識を理解し、手引きを活用して具体的な指示が出せるようになることを目指します。また、他者の意見から新たな気づきを得て、自社に戻って対応手順の策定や見直しを進めることも重要な到達目標の一つです。
演習教材に加えて公開された実施マニュアルは、机上演習を計画・実施・事後評価するために必要な手順や留意事項を詳細に解説しています。演習の目的や対象者、実施プロセス、事前準備、演習実施、事後作業といった各フェーズにおける具体的な作業内容が示されており、初めて机上演習に取り組む組織でも安心して活用できるようになっています。また、シナリオの解説とカスタマイズの方針も記載されており、自社の状況に合わせてより実践的な演習を実施することが可能です。

実践!机上演習の効果的な活用ステップ
IPAの机上演習を最大限に活用し、組織のセキュリティ対応力を高めるための具体的なステップを見ていきましょう。
演習を効果的なものにするためには、事前の計画が非常に重要です。
- 演習の目的と対象者を明確にする: 何を達成したいのか、誰に参加してほしいのかを具体的に定義します。
- シナリオの選択とカスタマイズ: 自社の事業内容やシステム構成、過去のインシデント事例などを考慮し、適切なシナリオを選択します。必要に応じて、マニュアルに示されたカスタマイズ方針に基づき、より自社の環境に即した内容に修正することも有効です。
- 参加者の選定とグループ分け: 経営層を含む多様な部署の担当者を選定し、1グループあたり4~6名程度で構成します。異なる視点を取り入れるため、なるべく複数のグループを作成することが推奨されています。
- タイムスケジュールの設定: 標準的な所要時間は3時間程度ですが、参加者の状況や演習の目的に合わせて柔軟に調整します。グループディスカッションの時間を十分に確保することが重要です。
- 資料と機材の準備: 演習用テキスト(講師用・受講者用)、回答例、必要に応じて「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」などをIPAのウェブサイトからダウンロードし、印刷またはデータで配布します。その他、資料投影用のPCやモニター、ホワイトボード、マーカーなども準備します。
- 会場の確保とレイアウト: グループディスカッションが円滑に行えるよう、十分な広さの会場を確保し、グループごとに机を配置するなど適切なレイアウトを準備します。
- 事前学習の実施: 参加者の情報セキュリティに関する知識レベルを揃えるため、必要に応じてIPAの映像コンテンツなどを活用した事前学習を実施することも有効です。
準備が整ったら、いよいよ演習の実施です。
- 座学: まず、IPAが提供する講師用テキストなどを参考に、「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」に基づいて、インシデント発生時の対応を3つのステップに分けて説明します。
- グループワーク: シナリオの説明後、グループごとに分かれてディスカッションを行います。参加者が自由に意見を述べられるような雰囲気を作り、批判的・否定的な意見に偏らないようにファシリテーターが促します。挙がった意見は随時ホワイトボードなどに記録し、グループ内で共有します。議論が停滞している場合は、考慮すべき観点などのヒントを与え、時間内に一定の結論が出るように誘導します。
- 発表: 各グループがディスカッションの結果を発表します。結論だけでなく、その結論に至った理由についても説明してもらうように促します。
- 講評: 事前に準備した回答例に基づき、各グループの発表内容について講評を行います。回答例の内容がインシデント対応ステップのどこに該当するのか、なぜその段階で必要なのかを説明することが重要です。回答例はあくまで一例であるため、異なる回答が出た場合でも、明確に誤っている部分がなければポジティブなコメントを心がけます。
- 振り返り: 演習全体を通して、個人またはグループごとに気づいたことや課題を振り返ります。可能であれば、自組織の問題点や具体的な改善策についても考えてもらうように促します。
演習を実施して終わりではありません。その効果を最大限に引き出すためには、事後作業が非常に重要です。
- アンケートの実施: 参加者に対してアンケートを実施し、演習の理解度や満足度、実際のインシデント対応に活かせそうか、自組織におけるルールなどの改善点について情報を収集します。
- 社内報告: アンケート結果や演習を通じて明らかになった組織の課題、改善事項などをまとめた報告書を作成し、経営層に説明します。改善策の実施に必要な許可や予算措置などにつなげることが目的です。
- ルール等への反映: 報告書の内容に基づき、インシデント対応体制の見直し、対応手順の整備、インシデント発生時の報告先の再確認といった具体的な改善策を実行します。
- 継続的な取り組み: 必要に応じて、他のシナリオでの演習や従業員向けのセキュリティ教育を計画・実施し、組織全体のセキュリティ対応能力を継続的に向上させていくことが重要です。
- より効果的な演習にするためのヒント
- 経営層の積極的な参加: 経営層が参加することで、インシデント対応の重要性が組織全体に浸透し、より実効性の高い対策につながります。
- 多様な部署からの参加: システム部門だけでなく、営業、総務など様々な部署の担当者が参加することで、多角的な視点から課題を発見しやすくなります。
- 複数グループでの実施と結果共有: 複数のグループで同じシナリオに取り組むことで、異なる視点や解決策が得られ、学びが深まります。結果発表の時間を設け、各グループの意見を共有することも重要です。
- シナリオの定期的な見直しとアップデート: サイバー攻撃の手法は常に進化しているため、演習シナリオも定期的に見直し、最新の脅威に対応したものにアップデートすることが望ましいです。
- 外部専門家の意見の取り入れ: 必要に応じて、外部のセキュリティ専門家を招き、アドバイスや講評をしてもらうことも有効です。
- 関連情報の活用: IPAが公開している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」や、インシデント対応の手引き、相談窓口・報告先一覧、インシデント対応に役立つ情報なども参考に、より深い理解と実践的な対応力の向上を目指しましょう。
- 演習で得られた教訓を組織のルールや計画に反映: 演習で明らかになった課題や改善点は、必ず組織のインシデント対応計画や関連規程に反映させ、実効性のある対策に繋げていくことが最も重要です。
まとめ
IPAが公開したセキュリティインシデント対応机上演習の教材と実施マニュアルは、組織が手軽にセキュリティインシデント対応の演習を実施し、対応力を高めるための強力なツールとなります。ご紹介した活用ステップやヒントを参考に、ぜひ貴社でも机上演習を実施し、組織全体のセキュリティ意識と対応能力を向上させてください。継続的な演習と改善を通じて、いかなる脅威にも屈しない強靭な組織を目指しましょう。
- セキュリティインシデント対応机上演習教材(IPA)
https://www.ipa.go.jp/security/sec-tools/ttx.html

